土地家屋調査士ってどこかの事務所で働かなくてもすぐに開業できるの?
本業があるから就職をして実務経験を積むのは難しい・・・
そんな疑問に答えます。
結論から言えば、土地家屋調査士になりたいなら最低限の実務経験は必要です。なので、どこかの事務所に就職をして業務の流れを覚えたほうがいいですね。
副業で実務経験を積みたいと考える人もいると思いますが、こちらもほぼ無理です。
参考:土地家屋調査士は副業として稼げるのか?《現役の調査士が解説します》
とはいえ、この記事の読者は多分このような悩みを抱えていると思います。
- 土地家屋調査士になりたいが、試験に合格したらすぐに独立開業をしたい
- わざわざ転職活動をしたくない
- 本業があるから調査士事務所で働くのは無理
この記事では以下の内容を解説しています。
- 実務経験が必要な理由
- 実務経験がなくても開業できるパターン
- 実務経験が必要なら何年働く必要があるか
では、さっそく解説をしていきます。
私は現役の土地家屋調査士です。私自身は1年半の実務経験を積んだ後に開業をしています。試験に合格する前は未経験でした。
こちらの記事は動画で見ることができます。
実務経験が必要な理由
測量の知識が必要
調査士試験の合格者は測量士補を持っていると思いますが、測量士補の知識だけで土地家屋調査士の業務を行うのは無理です。
例えば土地の測量は実際に器械(トータルステーション)を使って行うので使い方が分からないと仕事が進みません。
また、境界標の測り方や設置方法なども教科書には載っていないので、実務経験者に教えてもらうしかないです。
建物の測量に関しても、全く経験がないなら無理です。
表題登記くらいならできると思いますが、表題部変更登記(増築など)になると測り方が分からないし、申請に必要な書類の知識も必要になります。
これらの情報はネット上にはほとんどないので、実務を知っている誰かに教えてもらうしかないのです。
CADを使う必要がある
土地でも建物でもCAD(キャド)を使って図面をかく必要があります。
CADは図面や計算をするために使うパソコンのソフトのことですね。
CADを取り扱っている業者に聞けば、分からないところを教えてくれるのですが、彼らは最初から最後まで丁寧に教えてくれるわけではないです。
業者が教えてくれるのはあくまでも最低限の疑問点なので気を付けて下さい。
そもそも器材を扱う業者は機械や道具の知識は豊富ですが、調査士業務に関してはプロというわけではありません。
それから、土地の測量では現場で測った座標をCAD上で計算をする必要があります。
場合によっては、現場やCADでミリ単位で微調整をします。この作業は実務経験者でないと絶対に無理です。当然、試験に合格しただけの現場未経験者にはできません。
試験内容と実務は違う
実務では試験には出題されない知識が必要な場面がたくさんあります。
たとえば「調査報告書」です。
調査報告書の中身は登記申請に関する細かい情報です。(所有者や現地の状況などを登記官に書類上で報告する)
調査報告書は法定添付書類ではないので試験には出てきません。ですが、実務では必ず取り扱うものですので、実務経験がないと書き方が分からないのです。
当たり前ですが、ネットで調べても書き方は出てきません。
この他にも実務経験がないと業務の進め方が分からない場面がとても多いです。
実務経験(転職)がなくても開業できるパターン
ここまでの話の流れだと、実務経験なしでは土地家屋調査士になれない気がしますね。
この職業の専門性を考えると、やはりどこかで実務経験を積んだほうが無難なのですが、転職は無理という人もいると思います。
ここからはどこかの事務所に就職をしなくても開業できるパターンを紹介します。
測量士の経験がある
測量士ならトータルステーションの使い方を知っているはずですね。
測量士の知識は土地家屋調査士の業務でも使えます。
スムーズではないにせよ、測量士の実務経験があるなら調査士事務所で経験を積まなくても開業できると思います。
ただ、測量士と土地家屋調査士では測量の目的が違うので、仕事のやり方が異なる場面がたくさんあります。
分からない部分は知り合いの土地家屋調査士や測量士などに聞いた方がいいです。
測量を教えてくれる人がいる
開業には「測量の知識」が必須なのでそれを教えてくれる身近な人間が必要です。
なので、家族や友人に土地家屋調査士がいる場合は実務経験がなくても開業できます。
よくあるのは親が土地家屋調査士で開業しているパターンですね。もちろん、その他の親族でも友人でもいいです。
親族や友人に測量経験者がいないなら、土地家屋調査士や測量士の集まりに参加をして、人手不足で困っている経営者を探しましょう。(人手が足りない事務所は割とあります)
たまに手伝いに行けば最低限の仕事はできるようになります。
新人実務研修を受ける
土地家屋調査士として登録をすると、調査士会が実施している新人実務研修に参加できます。
新人実務研修とは調査士事務所で働きながら、実務の勉強ができる制度のことです。
働きながら・・・といっても給料をもらえるわけではなく、逆にこちらがお金を払って仕事を教えてもらう感じです。
期間は派遣先の先生と相談をして決めます。
場所によると思いますが、週3~5日ほど出勤します。ですので、3ヵ月くらい通えば器械の使い方くらいは覚えられます。
あとCADを使った図面の描き方も教えてもらえるし、境界標の設置も経験できるので調査士としての最低限の知識はつくと思います。
ただ、地方では実務研修を受け入れてくれる事務所があまりないことがあります。
詳しくは所属する調査士会に問合せをしてください。
(補足)東京法経学院にも実務研修がある
東京法経学院では未経験者専用の実務研修を実施しています。
4泊5日の合宿ですが、器械の基本的な操作や測量の経験などができるので、気になる人は公式をチェックしてみてください。
(土地家屋調査士の講座一覧の一番下にあります)
公式:東京法経学院
実務経験って何年必要なの?
ここまで解説してきたように、合格後にいきなり開業することは不可能ではないです。
でも、やはりいったんは就職をしたほうがいいです。
ただ、開業を目指しているなら出来るだけ早く独立したいですよね。
何年くらい働けば開業に必要な実力がつくのでしょうか?
5年以上の実務経験が多い
土地家屋調査士は独立開業まで何年の実務経験が必要・・・などという規定がないです。なので、自分が開業をしたいタイミングで仕事を辞めればいいわけですね。
ただ、土地家屋調査士として登録する人のうち、約半数が5年以上の測量経験があると答えています。(下の画像は調査士会のサイトのものです)
私の周りは、2年目以降に開業する人が多いと思います。
このあたりは個人差がありますね。(私は1年半くらいです)
あえてブラック企業を選んでもいい
暇な事務所を選んでしまったら、どれだけ長く働いても実力はつかないですよね。
逆にブラック企業を選んでしまった場合は、かなり忙しいですが実力がつくのは早いです。
私自身は約1年半の実務経験を積んだ後に開業しています。
私が働いていた事務所はかなり忙しい所だったので、短期間で一通りの実務は経験しています。
変な言い方ですが、さっさと開業したい人はあえて忙しい事務所を選んでみるのもありです。
忙しい事務所の選び方の基準
- 長期間求人を出している
- 従業員数が5人以上(10人以上だと確実に忙しい)
- 週に6日以上出勤と書いてある
こんな感じです。
見るだけでブラック企業のにおいがプンプンしますが、この条件なら間違いなく忙しいので業務を覚えるのも早いです。
さっさと開業したい人は思い切って挑戦してみてください。
それから、人手不足で忙しい事務所だと30~40代でも採用される可能性が高いかもしれません。
体力に自信がある人は問い合わせてみてください。
参考:【実体験】30代未経験でも土地家屋調査士への転職は可能か?
50~60代になるとさすがに厳しいです。
参考:土地家屋調査士|50代〜60代の未経験者が独立開業したら稼げるのか?
まとめ:できれば就職したほうがいいけど・・・
当たり前ですが、やっぱりいったん就職をして実務経験を積むほうがいいです。
どこかの事務所に所属をすれば同業者の仲間も増えるし、開業後に困った時には助けてくれる可能性があります。
あと、疑問点があったら電話で教えてくれることも多いです。
とはいえ、何らかの理由でそれができない人もいるでしょう。
就職が無理な場合は・・・
- 知人から教えてもらうか、新人実務研修で実務を覚える
- 分からないところがある場合に教えてくれる人を見つけておく
この2点が必須です。
この2点がクリアできるなら、実務経験なしでいきなり開業するのも不可能ではないと思います。
(補足)実務経験なしでいきなり開業をする流れ
土地家屋調査士として働いたことがない状態だと、開業までの流れが全く分からないと思います。
最後にざっくりとした流れを説明します。
- 土地家屋調査士試験に合格
- 調査士会に入会、土地家屋調査士として登録をする
- 測量の知識をどこかで習得
- 器械、CAD、登記申請ソフト、その他測量の道具を購入
- 不動産会社や司法書士などに営業をして仕事をもらう。もしくは知人から仕事を回してもらう
こんな感じですね。
最初の仕事は人からの紹介であることが多いと思います。
土地家屋調査士=人と関わらない仕事と思われがちですが、意外に営業スキルやコミュニケーション能力が必要なので気を付けて下さい。
参考:コミュ障には無理かも!?土地家屋調査士になるために必要な条件
ちなみに開業資金は80~100万円くらいはかかります。
融資を受けることもできますが、基本的には現金を用意しておいたほうがいいです。
今回の記事はここまでです。