
土地家屋調査士試験の合格が見えてくると、次にこう悩む人が多いです。
- 土地家屋調査士って、どこかの事務所で働かなくても開業できる?
- 本業があるから転職(就職して実務経験を積む)が難しい…
- 実務経験が必要だとして、何年くらい必要?
この記事では、「実務経験なしで開業できるのか」を現実ベースで整理しつつ、就職以外の選択肢として新人実務研修の実態(私が実際に受けた内容)まで具体的に書きます。
- 土地家屋調査士として稼ぐには、最低限の測量・CAD・申請実務の体験が必要
- ただし「就職しか道がない」わけではない(新人実務研修などで入口を作れる)
- 最終的に詰まるのは境界立会い・イレギュラー案件・営業(ここは準備と人脈でリスクを下げる)
※ほかの記事で書いた「即独立」は“就職ルートを通らずに開業準備へ進む”という意味です。実務ゼロで独立したのではなく、新人実務研修などで実務の下地を作ってから段階的に進めました。
【この記事で分かること】
- 実務経験が必要と言い切れる理由(測量・CAD・申請の現実)
- 就職しなくても開業できるパターン(新人実務研修など)
- 実務経験は何年必要か/短期で力を付けたい人の考え方
参考:動画で見る
なぜ「最低限の実務経験」が必要なのか
結論から言うと、土地家屋調査士の仕事は試験に受かっただけでは回りません。特に最初に詰まるのは次の3つです。
1. 測量は“知識”ではなく“操作”が必要
多くの合格者は測量士補を持っていますが、測量士補の知識だけで土地家屋調査士の現場を回すのは難しいです。
現場ではトータルステーションなどの器械を実際に扱い、観測し、座標を取り、状況に応じて段取りを変えます。器械の据え付けや、ミラーの立て方ひとつ取っても、最初は思い通りにいきません。
境界標の測り方・設置の仕方なども、教科書に“手順の正解”が載っている世界ではなく、現場で教わって身体で覚える世界です。
2. CADは「図面を描くソフト」ではなく“業務の中枢”
土地でも建物でも、最終的に図面・計算はCAD上で完結します。現場で取った座標をCADに入れて計算し、場合によってはミリ単位の調整も発生します。
CAD業者に質問すれば教えてくれますが、業者がプロなのはソフトであって、土地家屋調査士業務そのものではありません。業務の流れが分かっていないと、質問の仕方すら分からない、という壁が出ます。
3. 試験内容と実務は別物(“現場で必要な書類”が多い)
実務では、試験に出ない作業が普通に出てきます。たとえば調査報告書など、申請全体を進めるうえで必要な書類はありますが、試験の得点源としては出にくい領域です。
こういった実務の“型”はネット上に詳細が出ません。結局、実務経験者に教わるか、自分で遠回りしながら積むしかありません。
実務経験(転職)なしで開業できるパターンはある
ここまで読むと「じゃあ就職しないと無理じゃん」と感じると思います。基本は就職して実務経験を積むのが無難です。
ただし、事情があって就職が難しい人もいます。そこで、現実にある“就職以外の入口”を整理します。
| パターン | 開業しやすさ | 強み | 弱点 |
|---|---|---|---|
| 測量士(測量会社等)として実務経験あり | 高い | 器械・現場の土台がある | 登記・境界立会いは別スキル |
| 教えてくれる人(親族・知人・同業)あり | 中〜高 | 困ったときの相談先がある | 相手に依存しやすい |
| 新人実務研修を受ける | 中 | 就職せずに実務の入口を作れる | 地域差・受け入れ先次第 |
| 民間の実務研修(例:東京法経学院) | 中 | 短期で“体験”できる | 継続経験には別途工夫が必要 |
測量士の経験がある
測量士として現場経験があるなら、器械の扱い・現場段取りの土台はあります。土地家屋調査士でも測量スキルは活きます。
ただし、測量士と土地家屋調査士では測量の目的が違います。境界立会い、登記の考え方、申請の組み立ては別物なので、分からない部分は同業者や他士業に相談できる体制を作るのが安全です。
測量を教えてくれる人がいる
親族や知人に土地家屋調査士がいる場合は、就職せずに開業している例もあります。
もし身近にいない場合は、土地家屋調査士や測量士の集まり・研修会などに参加し、人手不足の事務所と繋がるのが現実的です。いきなり“仕事”ではなく、まず“相談できる関係”を作るのが第一歩です。
新人実務研修を受ける(私が実際に受けました)
- 就職せずに実務の入口を作れる(ただし地域差あり)
- 器械・申請・立会いの「現場感」はかなり掴める
- 一方で、営業や経営まで面倒は見てくれない(ここは自力)
【重要】受講条件は地域で異なる可能性があります:
私は試験合格後・登録前に新人実務研修を受けました。
「合格していれば未登録でも受けられるか」は所属予定の調査士会で扱いが違う可能性があるので、必ず事前に確認してください。
私が研修を受けるまでの流れ(リアル)
私は試験合格後、まず調査士会に連絡して新人実務研修について問い合わせました。すると調査士会が、研修を受け入れてくれる事務所を探してくれます。
ここでいきなり「地域差」に当たりました。
- 私の住んでいる市内では受け入れ先が見つからず、約2週間待ちになった
- 2週間後に「市外なら受け入れ可能」と連絡があり、車で40〜50分の事務所で研修を開始
- 正直遠かったですが、早く実務に触れたかったので受け入れました
研修の頻度・期間・費用の実態(目安)
期間は受け入れ先や本人の状況で変わりますが、私の場合は3か月でした。体感としては2〜4か月くらいが多く、半年以上の長期はあまり見ません。
頻度も話し合いで決めます。私は週5日で、他の社員と同じように稼働日に出勤しました。時間は少し短めで、9:30〜16:30くらいで終わる運用でした。
費用については保険代として月3~4万円を支払う必要があります。あくまでも研修のため給料などは発生せず、逆にこちらがお金を負担します。
研修で「できるようになること」
- ポール(ミラー)をまっすぐ立てる練習
最初にやった基礎練習です。地味ですが、現場で効きます。 - TS(トータルステーション)を実際に据える練習
未経験者が最初にぶつかる壁。就職だと現場優先で練習時間を取りづらいこともありますが、研修だと空き時間に庭や駐車場で繰り返し練習でき、プレッシャーなく上達できます。 - 申請書・添付書類の作成(専用ソフト)
試験勉強では触れない実務です。独立後に必ず触るので、経験しておくと安心感が違います。 - (人によっては)事務の仕組み改善まで任されることも
私はPC操作が得意だったので、写真整理用Excelのテンプレをマクロで改善しました。先生に喜ばれたうえに、今でも自分の業務テンプレの土台になっています。 - 境界確認の立会いに同行できる
自分が話すわけではありませんが、先生がどう説明し、どう収めるかを隣で見られるのは大きいです。
研修だけでは「できるようにならないこと」
- 経営・見積もり(お金の意思決定)
見積書を見る機会はあっても、経営戦略や相場観まで教わるのは難しいです。ここは独立後に自分の価値観で作る領域です。 - 仕事につながる人脈づくり(紹介が自動で増えるわけではない)
同業者を紹介してもらえることはありますが、「この人に仕事を回してあげて」という形にはなりにくいです。研修中から士業の交流会などに顔を出し、同時並行で人脈を作った方が強いです。 - ただし“副産物”として得をすることもある
たまたま引退間近の先生から、使わなくなった機材を譲ってもらえたことがあります。測量機材は高額なので、これは本当に助かりました(今でも現役で使っているものがあります)。
研修後に「開業で詰まりやすいポイント」
- 境界立会い対応は、相手次第で難易度が跳ねる
流れを知っていても、結局は人と人。私は独立後、最初の境界確定測量で気難しい隣人に当たり、まとまるまで2か月かかりました。ここは経験でしか埋まりません。 - イレギュラー案件は「8年目でも迷う」
教科書通りの依頼ばかりではありません。困ったときにすぐ相談できる相手(他士業・同業者)を複数確保しておくと、詰まりが減ります。 - 営業は自力。実務研修だけでは仕事は増えない
独立して稼ぐなら、営業力は避けて通れません。研修で実務の入口は作れても、仕事の入口は自分で作る必要があります。 - 書類テンプレの整備は「地味に効く」
ソフトに雛形があっても、実務を回すと「自分用に直したい」が必ず出ます。表計算や簡単なマクロなど、業務を効率化できる最低限のPCスキルがあると独立後に疲弊しにくいです。
(補足)東京法経学院にも実務研修がある
「新人実務研修の受け入れ先が見つからない」「まずは短期で体験したい」という人は、民間の実務研修を検討するのも一手です。
東京法経学院では未経験者向けの実務研修を実施しています(タイミングや内容は変わる可能性があるので、公式で最新情報を確認してください)。
公式:東京法経学院
実務経験は何年必要なの?
土地家屋調査士は「独立開業まで何年必要」といった明確な規定がありません。つまり、自分が開業したいと思ったタイミングで開業できます。
ただし現実として、登録する人の多くは何らかの測量経験を持っています。体感としても、2年目以降に開業する人が多い印象です(妻は約1年半でした)。
早く力を付けたいなら「忙しい事務所」を選ぶ考え方もある
暇な事務所を選んでしまうと、何年いても経験が増えません。逆に、忙しい事務所は大変ですが、短期間で一通りの業務に触れやすいのも事実です。
忙しい事務所を見分ける目安:
- 長期間求人を出している
- 従業員数が多い(5人以上だと忙しい可能性が上がる)
- 稼働日が多い(週6など)
まとめ:できれば就職、難しいなら「実務の入口」を必ず作る
当たり前ですが、やはり就職して実務経験を積むのが一番安全です。同業者のつながりも増え、開業後に困ったとき助けてもらえる可能性も上がります。
一方で、就職が難しい人は新人実務研修などで「実務の入口」を作ってください。未経験のまま独立しても、最初の1件で詰まります。
- 新人実務研修などで、器械・申請・立会いを一度は体験する
- 困ったときに相談できる相手(同業・他士業)を複数つくる
- 営業は避けられない前提で、開業前から動き始める
合格・独立開業までのロードマップ
よくある質問(FAQ)
Q. 実務経験なしで、いきなり開業できますか?
器械・CAD・申請・境界立会いのどこかで詰まります。就職が難しい人でも、新人実務研修などで「実務の入口」を作ってから進めるのが安全です。
Q. 新人実務研修は登録前でも受けられますか?
私は合格後・登録前に受けましたが、運用が違う場合もあるので必ず所属予定の調査士会に確認してください。
Q. 就職と新人実務研修、どちらが良いですか?
ただし事情があって難しい人は、新人実務研修で入口を作りつつ、人脈づくりと営業準備を同時に進めるのが現実的です。
Q. 副業で実務経験を積むのは可能ですか?
現場は平日昼間が中心で、継続して出られないと仕事になりにくいです。詳しくは本文中の「副業ルートが難しい理由」も参考にしてください。

