退職後や定年後に土地家屋調査士として稼ぎたいんだけど可能なの?実務経験はどうすればいい?
このような疑問にお答えします。最近、50代〜60代の方からお問い合わせをいただく機会がよくあります。
第二の人生として土地家屋調査士を目指す計画を立てている方が多いようです。
先に結論から言っておきます。実務経験が積めるアテがある&人脈と営業スキルがあれば稼げます。そうでない場合はかなり厳しいです。
あくまでも個人的見解ですが、50代〜60代の未経験者が目指すにはハードルが高いと思います。これから詳しく解説していきます。
この記事は現役の土地家屋調査士が書いています。私自身は30代で試験に合格し、その後独立開業しています。
土地家屋調査士に必要なスキルなど
まずは土地家屋調査士として独立開業する上で必須になるスキルなどを紹介します。
- 実務経験
- 体力
- 営業スキル
- 人脈(交友関係)
その他に必要となるものはこちら。
- 土地家屋調査士の資格
- 自動車
- 器械(測量の道具、パソコンなど)
- 開業資金(器械や車代、会費などを含む)
仕事はどこで覚える?
未経験者が独立開業をするためには、ある程度は仕事の内容を覚える必要があります。
試験に合格しただけで独立開業をするのは基本的には無理だと思ってください。
仕事の覚え方については主に3つの方法があります。
- どこかの事務所に就職
- 新人実務研修を受ける
- 知り合いの実務経験者に教わる
1.どこかの事務所に就職
まず、どこかの事務所に就職するパターンですが、これは50代〜60代にはハードルが高いかもしれません。
正直なところ、未経験の50代〜60代を積極的に雇いたいと思う事務所はほとんどないと思います。
理由は3つあります。
理由1.仕事が大変
土地家屋調査士の仕事は主に土地の測量と建物の測量に分けられます。建物は比較的楽な作業が多いので、年配の方でも十分対応できるかと思います。
ただし、土地の仕事は重い器械を運んだり、中腰の作業が多いので腰痛になりやすいです。30代の私ですら体を痛めることがあります。
同業者でも腰を痛めている人はたくさんいるので、現時点で腰痛持ちの人はあきらめたほうがいいかもしれません。
「じゃあ、建物だけをやればいいじゃん」と思うかもしれませんが、現実的に無理です。
仕事の配分としては土地のほうが多めなので、建物だけをこなして稼ぐ…というのは結構難しいと思います。
司法書士や行政書士と兼業するなら可能ですが、土地家屋調査士だけを取得し、建物の登記を専門として稼ぐのは相当厳しいです。
詳しくは下記の記事を参考にしてください。
理由2.パソコンの作業が多い
パソコンを使って図面や書類を作成する業務が多いため、体力があってパソコン業務に慣れている若者を雇いたいと思う経営者がほとんどだと思います。
ワードやエクセルの基本操作はもちろん、図面を描く場合に必須のCADや登記申請ソフトを楽々と使えるレベルにならないと仕事になりません。
「パソコンが苦手」とか「操作を覚えられない」という人には不向きです。
理由3.長期間の勤務+即戦力を希望
さらに、長く勤務してくれる人材を育成したいので、年配の方は敬遠される傾向にあります。独立開業を目指しているならなおさらです。(育ててもすぐに退職しそうだから)
経営者にとって雇うメリットがあるなら別ですが、何もない年配の未経験者を1から育ててくれる事務所はかなり珍しいのではないでしょうか。
厳しい言い方ですが、ご自身が経営者の立場だったら“未経験の50代~60代”を積極的に雇用したいと思いますか?
私が以前勤めていた事務所では前職が不動産系の仕事だった40代の男性ですらお断りしていました。未経験者なら40歳未満、経験者なら40代以上でも採用…という感じでしたね。
やはり年齢がネックになる場面がとても多い印象です。
というわけで、未経験の50代~60代が調査士事務所に就職するのは結構難しいと思います。なので、就職以外の方法をいくつかご紹介します。
2.新人実務研修を受ける
新人実務研修は土地家屋調査士会が実施している新人を育成するためのプログラムのようなものです。試験に合格した後に土地家屋調査士に登録すれば受けられます。
どこかの事務所に期間限定でお手伝いに行くような感じですね。研修中に給料は発生せず、逆にこちらが保険代などを支払う必要があります。
地域によっては受け入れてくれる事務所が少ない場合があるので、絶対に受けられるとは限りません。
ただ、先ほど解説した事務所に就職するパターンよりは年齢のハードルはかなり低いです。
実際に50代の方が研修を受けている事務所を知っているので、運が良ければ最低限の実務経験は積めます。
3.知り合いの実務経験者に教わる
知り合いに実務経験者がいるならその人に教わりながら仕事をすることが可能です。
とある不動産会社の経営者は、資格を取得後、知人の測量会社の現場に同行し、最低限の実務経験を積んでいます。
その後は同じ土地を何度も測り直し、ミスがないかを再確認して手続きを進めていました。慣れるまでは、知り合いの土地家屋調査士に最終チェックをさせていたようです。
そもそもこの人は不動産会社を経営していたため、土地家屋調査士や測量士との交友関係があったわけですが、似たような境遇の人は知人に頼めば何とかなるかもしれません。
(補足)シルバー人材について
シルバー人材の人を現場に連れて行く調査士はたまに見ます。ですが、最低限の現場作業に携わる程度なので、独立開業に必要なスキルはほとんど身につかないと思います。(「この棒を持ってそこに立ってて~」「草むしりお願い~」程度の仕事)
シルバー人材の人が図面を書いたり、登記申請をしているパターンを“私は”見たことがないです。
ぶっちゃけ、素人のおじいさんに重要な仕事を任せるのは怖すぎて無理だし、そのレベルで仕事をしてもらうなら普通にバイトを雇います。
営業スキル・人脈が特に重要
ここからは実務経験以外の課題について解説します。
土地家屋調査士として稼いでいくために、最も重要なのは人脈と営業スキルです。
人脈については士業や同業者の交流会などに積極的に参加するか、現在ある交友関係から広げていく方法があります。
もしも、現時点で人脈があり、営業スキルにも自信がある場合は50代〜60代の未経験者でも土地家屋調査士として稼げると思います。
逆に言えば、不動産業界や士業と関わる機会がない人や、コミュニケーション能力が低い人は独立しても稼げない可能性が高いです。
そもそも、営業スキルと人脈さえあれば資格なしでも稼げます。自信がある人は、わざわざ資格を取得してまで本気で土地家屋調査士になりたいのかをよく考えてみてください。
結局のところ、資格を持っていても食えない人はたくさんいます。
資格さえ持っていれば自動的に稼げるようになると勘違いしている人が多いみたいですが、この考え方はとても危険です。
土地家屋調査士は経費が高い
土地家屋調査士は開業資金や月々の経費が高めです。ざっくり言うと、開業資金は100万円、月々の経費は10万円程度です。
これらの出資金を回収できる見通しがあるなら良いですが、未経験の50代、60代の人が安定的に稼げるのかは正直疑問です。
稼げたとしても軌道に乗るまでに多少は時間がかかります。コロナで仕事が減り、廃業する事務所もたくさんあるので、上手くいかないパターンも十分にありえます。
稼げるかどうかも分からないことに投資をするよりは、普通にアルバイトをしたほうがリスクが低いのではないかと思います。
(補足)平均年齢が高い件について
土地家屋調査士の平均年齢は56歳です。60歳を過ぎても現役の人はたくさんいます。
ですが、今まで別業種だった50〜60代がいきなり土地家屋調査士を始めて、その後安定して稼いでいるパターンを私は見たことがありません。(私が知らないだけで、ゼロではないと思いますが)
土地家屋調査士は年配の方が多いですが、これらの人は若い頃からずっと実務経験を積んでおり、同業者間のつながりがとても強いです。
また、現場作業は若いスタッフに任せて、主に経営側の仕事をしている代表者も多いです。
50〜60代の未経験者で、これから資格を取得する人たちとは全く違う成功パターンなのです。
「平均年齢が高そうだし、定年後に始めても稼げそうじゃない?」
…という、勘違いはしないほうがいいです。全く別物だと思ってください。
他の業種をおすすめします
今回の記事をまとめると、
50〜60代の未経験者が第二の人生を考える上で、土地家屋調査士になるのはハードルが高い
ということです。理由を再確認しておきます。
- 実務経験が積みにくい
- 体力が必要
- 仕事を安定的に取得できる人脈作りが大変
- 予想以上の経費がかかる
あくまでも個人的な意見ですが、世間が思っているほど土地家屋調査士は楽に稼げる仕事ではないです。20~30代から始めればそこそこ稼げるので狙い目の職種ではありますが、中年~高齢者にとってはハードな場面が多すぎると思います。
ですので、50代~60代で土地家屋調査士を目指すのはオススメしません。
これから勉強を開始して、試験に合格するのも大変なので、他の仕事を選んだほうがいいのではないかと思います。
というか、普通にバイトをしたほうがリスクを負わずに稼げます。もしくは初期投資が少ない資格を取ったほうがいいのではないかと思います。
ただ、それでもやってみたいという人はとりあえず、勉強を始めてみてください。こちらの記事で詳しく解説しています。
今回の記事は以上です。