
最近、50代〜60代の方から「定年後の武器に土地家屋調査士を目指したい」というご相談をよく頂きます。しかし、現役の視点から本音を言えば「実務を教えてくれるアテがないなら、絶対にやめたほうがいい」です。この記事では、退職金と残り少ない現役時間をドブに捨てないための「残酷な現実」を突きつけます。
「50代未経験でも稼げる?」「定年後の仕事として将来性はある?」
こうした疑問(例:土地家屋調査士 50代 未経験/定年後/独立)を持つ方は、人生の大きな決断をしようとしているはずです。
先に結論を言います。「前職からの強力な人脈」と「100万円単位の赤字に耐える資金」がないシニア新人は、高確率で詰みます。
平均年齢が高い業界だからといって、未経験者が楽に参入できるわけではありません。これから、私が現場で見てきた「シニア新人の末路」と、それでも勝てる唯一の条件を解説します。
- 「平均年齢56歳」の嘘:ベテランが多いだけで、初心者に優しいわけではない。
- 教育という概念はない:未経験の50〜60代を1から育てる事務所は絶滅危惧種。
- 固定費の地獄:仕事がゼロでも毎月10万円以上のローン・リース代が飛ぶ。
- 健康寿命の削り合い:8割が腰痛持ち。40代でも針治療しながら現場に出る世界。
- 現場で見た「詰んでいるシニア新人」のリアルな姿
- 開業後に待ち受ける「毎月10万円の固定費」という恐怖
- 新人実務研修で学べること、学べないこと
- 【YES/NO診断】あなたが目指すべきかどうかの判断基準
1. 現場で見た「詰んでいるシニア新人」のリアル
士業の世界では、何歳になっても「新人」として扱われます。しかし、50代を過ぎてから参入する人の多くは、ここでプライドと能力のギャップに苦しむことになります。
「コピー用紙の名刺」を渡す新人の悲劇
以前、調査士の交流会で出会った50代後半の男性の話です。彼は登録したての新人と誇らしげに語っていましたが、手渡された名刺を見て驚愕しました。普通のコピー用紙に名前を印刷して、ハサミで切っただけの「ペラペラの紙」だったのです。
本人は「名刺くらい自分で作ればいい」と思ったのかもしれません。しかし、周りは30代〜40代でも、実務経験は何十年もある大先輩。そこでコネを作り、頭を下げて「タダでもいいから教えてくれ」と言えないプライドの高さが、その後の廃業を予感させました。
駐車場で「ポール立て」を繰り返すおじさん
私がお世話になっていた事務所に、50代で採用された未経験の男性がいました。しかし、数ヶ月後に訪ねてみると、彼は事務所前の駐車場で、測量用のポール(赤白の棒)をひたすら立てる練習をさせられていました。
難関国家資格を突破した先に待っていたのが、駐車場のポール立て。事務作業(CAD)ができないシニア新人は、現場では「棒を持って立っているだけの人」以下の扱いをされるのが現実です。
2. 毎月10万円が消える「固定費」の恐怖
「資格さえあれば、細々とでも食っていける」というのは幻想です。調査士は他の士業に比べて、維持費が異常に高いのが特徴です。
独立後に待ち受ける支払いの現実
- 測量機材・ソフトのローン:月10万円〜(完済まで5年程度)
- 土地家屋調査士会費:月数万円
- 事務所家賃・車両維持費:月数万円〜
私が機材などのローンをすべて払い終えたのは5年目でした。それまで、何もしなくても毎月10万円以上の固定費が飛んでいくのです。
毎月15〜20万円の新規案件を取って、ようやくトントン(赤字ではないだけ)。生活費を稼ぎたいなら、それ以上の案件が毎月必須です。コネなし未経験のシニアに、その見通しはあるでしょうか?仕事がなければ、貯金が削れるだけの「赤字の自営業者」になるだけです。
3. 8割が腰痛。針治療なしには通えない現場
土地家屋調査士=地味でキツくなさそう、と思ったら大間違いです。現場はとにかく過酷です。
中腰での作業、重い機材の運搬、数時間のデスクワーク。私が見てきたベテラン調査士の8割は腰痛持ちです。私の先輩(45歳)は、毎朝針治療をしてから出勤し、現場では腰を抑えながら苦しそうに作業していました。
40代でその状態なのに、50〜60代で未経験から現場に出て、本当に体力が持つでしょうか?よほどのスポーツマンでもない限り、健康寿命を削るだけの博打になります。
4. どこで仕事を覚える?50代からの「実務修得ルート」
50代未経験者を1から育ててくれる事務所は絶滅危惧種です。そうなると、以下の「新人実務研修」を頼ることになります。
新人実務研修の実態
土地家屋調査士会が実施する研修で、どこかの事務所にお手伝いに行くシステムです。
- メリット:年齢に関わらず受け入れられやすく、最低限の測量や図面作成は学べる。
- デメリット:給料は出ない(逆に保険代などを払う)。経営ノウハウや「仕事の取り方」は一切教えてもらえない。
研修で学べるのは、あくまで「作業」のやり方だけ。その後の「どうやって食っていくか」という経営面では、誰も助けてくれません。
5. それでも「勝てるシニア」の唯一の型
厳しいことを書きましたが、50代からでも成功している人はいます。その共通点は、自分一人で泥臭く動くのをやめ、**「経営者」に徹していること**です。
シニア合格者の勝ちパターン
- 前職のコネを換金する:不動産、建築、銀行などに太いパイプがあり、資格取得前から「仕事の入口」を確保している。
- 現場は外注・補助者任せ:自分は営業と登記の説明に徹し、動ける若手や他事務所と組む。
- IT化を極める:事務作業の遅さを自覚し、最新のガジェットやマクロを駆使して「作業」をゼロにする。
何も知らない、でも営業だけはできます!……というレベルでは通用しません。依頼人に登記の流れを完璧に説明できる「貫禄と知識」がなければ、シニア新人が信頼されることはありません。
- 前職までに「不動産・建築・銀行」などの強力な人脈がある?
- 年下の先輩に土下座して教えを請えるプライドの低さがある?
- 毎月10万円以上の赤字が1年以上続いても耐えられる資金がある?
- PC操作や新しいソフトを覚えるのが得意(苦ではない)?
YESが3つ以上なら、挑戦の価値あり。2つ以下なら、無理に独立せずアルバイトや別の資格を探したほうが、老後のリスクは圧倒的に低いです。
まとめ:50代の1年は、20代の5年分重い
土地家屋調査士は「楽な隠居仕事」ではありません。 50代・60代の未経験者が参入するのは、想像を絶するハードモードです。「1,000万円稼げなくても、手取り20〜30万でいいや」という甘い考えすら、毎月の固定費と体力の限界が打ち砕いてきます。
- 「資格さえあれば」という幻想を捨てる。必要なのは「人脈」と「体力」。
- 修行先がないなら、即独立の博打ではなく「実務研修」と「人脈作り」に死力を尽くせ。
- 独学で数年浪費するのは致命傷。最短で受かって実務の場に出るのが唯一の勝ち筋。
厳しい現実を理解した上で、それでも人生を賭けてみたいという方だけ、一歩を踏み出してください。時間は、あなたの想像以上に速く過ぎ去ります。

